全国各地の医療安全支援センターにおける、さまざまな活動を紹介します。
相談能力向上のための研修資料作成プロジェクトチーム (PT)
【その2】 ~住民啓発の出前講座を企画実施してきました!~
2015年8月25日(火)10時。A市のある集落の自治会館に約30名のシニアの方が集まり、PTメンバーのKさんとSさんが語りかける「上手なお医者さんのかかり方」について熱心に耳を傾けてくれました。そうです。研修資料作成プロジェクト(PT)の活動第一弾として、住民啓発研修(出前講座)を企画し実施してきましたのでご報告致します。
■研修の中身ができるまで
●住民啓発で伝えたいことは
「かかりつけ医を探すことは自分自身を探求すること!」
「かかりつけ医を探すポイントを知って、もしも・・・の時に備えること!」
医療安全支援センターで数年間相談員をしてきたKさんとSさんは、相談員になる前は病院で勤務をしていました。病院に勤務していたころから、患者さんに治療や療養について一生懸命説明をし、安心して病院に受診してもらおうと努力してきましたが、「本当にわかってもらえただろうか?」という不安はどこかに残っていました。そして病院を離れ相談員になった時に、患者と病院とのギャップに直面しました。病院に対して大きな不信感を持っている患者家族のいかに多いことか・・・と。患者家族が持っているのは、漠然とした不安、漠然とした不信感にも関わらず、感情はこじれ、すでに当事者同士の話し合いが成立しない状態で相談が持ち込まれてくるということに、KさんとSさんは危機感をもっていました。
そんなお二人に、今回、住民啓発研修を企画し実施してもらうことにしました。自治会から出前講座の依頼があったA市支援センターが快くその場を提供してくださったので実現しました。
●どんな研修にするかの事前企画会議
PTメンバーが集まって研修の企画会議をしました。その企画をもって後日A支援センターに説明に行くことになっています。事前企画会議では出前講座のコンセプトを考え、講座の構成をたてて研修資料案を作成するところまで行いました。
【コンセプト】
- すでに患者家族の立場にある、あるいはこれから患者家族になりうるシニアの方たちに、病院とどのように付き合っていけばいいのか、一緒に考えていけるような時間にしたい。
- 上手なお医者さんのかかり方を考えることは、自分の病院のかかり方を振り返ったり、自分がどのように生きたいかを考える時間である、ということを伝えたい。参加者に現在のお医者さんのかかり方を質問しながら進めたい。
- シニア世代が考えなければならない大切なテーマである「エンディング」についても触れていくようにしたい。
【研修の構成】
- 冒頭(5分):支援センターの説明(A市支援センター)
- 前半(20分):自分たちの医療のかかり方を振り返る(PTメンバー)
質問1:この一年間に一回も病院を受診していない人(現在いくつの診療所や病院にかかっていますか?いくつの診療科にかかっていますか?)
質問2:困ったときに相談できるかかりつけ医はいますか?
質問3:ご自身にとってよい医師とはどんな医師だと思いますか?
質問4:もしも・・の時の質問です。病気になって動きが取れなくなったとき、どうしたいか、どうしてほしいか、誰かと話をしていますか?(エンディングノートは書いていますか?) - 後半(20分):かかりつけ医をもつ必要性とメリット(PTメンバー)
・かかりつけ医を選ぶポイント
・かかりつけ医の探し方
・かかりつけ医との大事なコミュニケーションTOP3
・患者家族が自分たちでできること - 情報提供(5分):在宅医療連携拠点について(A市支援センター)
- 質疑応答(10分)
■出前講座の当日の様子
- テーマ:上手なお医者さんのかかり方~かかりつけ医を探すコツ~
- 対 象:A市自治会シニア約30名
- 時 間:60分
参加者はもともと地域のための活動を継続して行っている意識の高い「勉強好き」のシニア世代。ロの字型になったテーブルにびっしりと隙間なく座って、勉強会をされるのは慣れているご様子。
参加者の前にはホワイトボードと今回の講師であるA市支援センターのSさん、PTメンバーであるKさんとSさん。会長さんの「みなさんしっかりと勉強をして上手にお医者さんにかかれるようになりましょう~」という言葉で出前講座は始まりました。詩吟が趣味のKさんは、持ち前の魅力で参加者を巧みに話題に近寄らせていきます。
30名のうちこの一年に医療機関にかかっていない人は0人でした。「信頼できるかかりつけ医がいる」という質問に手を挙げてくださったのはお一人でした。自分がかかっている医師がかかりつけ医なのか、かかりつけ医としてふさわしいのか、と参加者に問題意識がでてきたところで、Sさんにバトンタッチ。しっかり者のSさんは「説明させたらピカイチ」の方です。かかりつけ医に関するポイントを小気味よく説明されていき、わかりにくいところは、ご自分の経験談を盛りこんでわかりやすく説明をする見事な腕前でした。
質疑応答も、参加者と講師の協力があり充実していました。参加者は質問を積極的にしてくださり、でてきた質問や意見についてKさんとSさんはその場で一緒に考えていきました。それもそのはず、このテーマには「正解がない」からです。どのように考えたらいいか、その場にいる全員で考えていく形になります。質問の中には「かかりつけ医を探すポイントを聴いても、目の前の医師がかかりつけ医にふさわしいのか見極めるのは難しいよ!」という意見を頂く場面もありました。受け止めて、理解を促すという相談現場でつちかったお二人の見事な応答力が見えました。出前講座は、支援センターにとっては、生活の場にある医療の話題を耳にする貴重な機会。また、住民の医療への不信感を事前に摘み取る機会。今回の研修はそのひとつの形が見えました。
■お知らせ
本研修の総括と研修につかった資料については、今年の医療安全支援センター総合支援事業報告書に掲載させて頂きます。その前に、上記研修をしてみたいという支援センターがありましたら、事務局へご連絡ください。次は、B市が開催する医療機関相談員との情報交換会をPTメンバーが支援していく予定です。引き続き、耳より情報にご注目ください。